journal
雪の言葉、オーロラの色
2025.10.01
( Nordic Journal )

「雪は天から送られた手紙である」
世界で初めて人工雪の結晶を作ることに成功した科学者、中谷宇吉郎はこう言葉を残しています。ひとつとして同じ形のない雪の結晶。それはたしかに、文脈に応じて多様に意味を形成する「言葉」そのものに例えることができそうです。降り積もった雪。それは天からの言葉の集積で、人々のための地となり道となり、さらなる方へと導いてくれます。


雪の上、夜の下。
星々に手を伸ばしても届かないけれど、無限の遠さは感じられない。そういう曖昧さを含んだ距離のなかで、地球と宇宙は見えない糸で繋がっています。星が、夜の道標となり、夜が、星を輝かせているのです。



雲が流れて、星は瞬く。
雲も星も地球も夜も、あらゆる事物は淀むことなくどこかへ向かって動きつづけていて、雪の大地に佇む「私」という小さな存在もまた、その循環の一部として、遠くの空を見つめているのでした。北の方角に光が現れたのは、それから間もなくのこと。

オーロラは太陽風によって生まれます。
すなわち、それは太陽からの贈り物。昼には優しくあたたかな光を、夜には幽玄なる光を、この遠い惑星まで届けてくれます。




風によって形を変える雲とは異なり、オーロラの光は、まるで自我を持っているかのように自由きままにその姿を絶えず更新し続けます。時に砂漠の砂のように、時に大海の波のように。

大地を包み込むその光は、「言葉」によって表現できうる人間の感情の限界を気づかせると同時に、そうではないコミュニケーションの可能性を、理性ではなく本能的な共鳴を、美しく提示してくれているようでした。












きみは言葉を探しすぎてる
谷川俊太郎 「新しい詩」より
言葉じゃなくたっていいじゃないか
目に見えなくたって
耳に聞こえなくたっていいじゃないか
歩くのをやめて
考えるのをやめて
ほんのしばらくじっとしていると
雲間の光がきみを射抜く
人の気持ちがきみを突き刺す
オーロラの色が君に感染する
きみは毎朝毎晩死んでいいんだ
新しい詩をみつけるために
むしろ新しい詩にみつけてもらうために

雪の言葉、オーロラの色
( Nordic Journal )
2025.10.01
Text & Photography : lumikka